共同発表:水素の大量製造を可能にする光触媒の理論設計に成功
概要
1.独立行政法人 物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(拠点長:青野 正和)、梅澤 直人 主任研究員、葉 金花 ユニット長、レルンチャン・パクプン 博士研究員、オウヤン・シュシン 博士研究員らの研究グループは、太陽光を利用して水から水素を生成できる光触媒注1)の理論設計に成功した。
2.光触媒の開発は、研究者の直感に基づいて進められてきたため、系統的に活性を向上させることが困難であった。それゆえ、見通しよく開発を進めるための設計指針の構築が待たれている。計算機を用いた模擬実験を実施することで有望な材料を選定し、理論主導で開発を進める試みが世界中でなされているが、成功例は少ない。
3.チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)は光触媒としての応用が期待されているが、太陽光の大部分を占める可視光を吸収できない。そこで、Crなどの遷移金属注2)をドープ注3)することで可視光吸収を増幅する試みがなされている。近年、遷移金属の価数を安定化するために他の元素を共ドープする研究が進められているが、ドープ種の選定に明確な指針が存在しない。
4.今回、計算科学を駆使して様々な元素とCrを共ドープした場合の電子状態の変化から最適な組み合わせを検討した。その結果、SrTiO3中に伝導電子を生成する能力の高いLaをCrと共にドープした場合に最も活性が高くなることが予測された。実際、この材料の水素発生効率が高いことが実験的に確認され、理論の正当性が実証された。
5.水素は環境に優しいエネルギー源として期待されており、効率的に水素を製造できる技術の開発が待たれている。本研究から、光触媒の開発に理論設計が有効であることが実証され、更に活性の高い材料の開発に向けて新たな道を切り開いた。環境・エネルギー問題の解決に大きく貢献できるものと期待される。
6.本研究成果の一部は、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「元素戦略と新物質科学」研究領域(研究総括:細野 秀雄 東京工業大学 教授)における研究課題「ユビキタス元素を用いた高活性光触媒の開発」(研究者:梅澤 直人)の一環として得られたもので、英国の科学雑誌「Journal of Materials Chemistry A」で近日中に公開される。
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20130122/index.html